【Bohème:Vol.4】もうひとつのボヘミアンな名前物語 ネタ編

その名前を聞いただけでどんな人かイメージすることがありますよね。小説などでも主人公の名前は、そのキャラクターや物語に合わせて付けられているように思います。
そして、やっぱりオペラの登場人物も、そのキャラクターを意識した名前が付けられているようですよ。

ミミの本当の名前は「ルチア」ということはもう良いですよね?
ルチアとは、ラテン語のLUX(光)、古代ローマでは「夜明けの最初の光の子」に名付けられる名前だそうです。
ミミのアリアでも言いますよね。「4月のはじめての(太陽の)口づけは私のもの!」。本当にそのまんまですね。
理解されている名前の印象としては、おしゃべりで時折空気が読めてなくて、恋にちょっとあぶなっかしい……とってもチャーミングな名前のようです。

そして、その恋人のロドルフォなんですが、こちらはドイツの古い名前、Rudolf(Rhood-Wulf) そう「栄光に満ちた狼」。戦場の勇者であり、王者の名前です。印象として、夢多き理想家でありながら激情家、繊細な心を持ちながらも大胆な冒険をする活動家に与えられる名前のようです。

このカップル、これはなかなか大変な大ロマンスの起きる名前ですよね。 オペラの中でも、モミュスのシーンで、ちょっとミミが空気を読めないでマルチェッロをイラっとさせたりもします。そして、ロドルフォの夢多き夢想家ぶりと来たら!
また、狼の属する夜には朝日は属すことはできないのです。(悲)

さて、もう一組のカップル。 ええそうです。 ムゼッタとアルチンドロ‥‥ 違いました、ムゼッタとマルチェッロです。 こちらも名前でみる相性診断がとっても面白いことになっています。

本名が判らないので、ムゼッタはそのままムゼッタで判断するしかありません。牧歌的なワルツ、また、その楽器としてのミュゼット、というお話は前回致しました。
ところで、もう一つの名前の読み解き方もあるんです。

ムゼッタの語尾の「ッタ」は、「可愛い◎◎ちゃん」というように愛称化するときに付けるものです。となると、ムゼッタは「可愛いムーサちゃん」となります。ムーサといえばギリシャ神話の「ミューズ」ですね。
そう、芸術や詩の女神です。美人でキュートで自由。
確かに、ムゼッタは詩のインスピレーションの源泉そのもののです。もしかして ロドルフォと恋に落ちていたらとんでもない事になっていたかもしれませんね(笑;;;;

若い画家
Photo by Antenna

片やマルチェッロ君。お分かりになる方もそろそろ出てこられたかしら? ローマの軍神マルテ(マルス)を語源とするマルクスからきた、小さなマルクス。これはラテン語でMarcellus(マルチェッルス)「小さな金槌」を意味するようになって、やはり戦いを連想させる、ローマ貴族の名前となります。
名前の印象として、繊細で慎重だが、一度信頼すると一気に愛情深くなり、現実より理想の世界を愛する、となっています。たしかに マルチェッロってそんなところありますよね。

となると、どう考えてもこのカップル、上手く行く筈ないんですよね
ミューズの娘と軍神の子ですから……
とはいえ、短い間、インスレーションを与え合うという意味では、瞬間的な激しい恋愛感情をかき立てられる相手の様です。モミュスで再会した際、マルチェッロは「セイレーンよ……」と呼びかけます。やっぱりムゼッタは歌そのものなんですね。(セイレーンは、ある説では、ムーサの娘とも言われています。あくまで一説ですが)

ムゼッタは言います「マルチェッロは私には『たまに』とっても必要になるの」
あら ずっとじゃないんだ……

せんだって、とあるイタリア人に「ねえ、ショナールっていう名前を聞くと、どんな印象もつ?」と聞いてみたところ、「そうね〜 なんだか『へっぽこ』っていうような感じを受ける名前なのよね。」つまり、ショナールという名前そのもので「へっぽこ音楽家、少なくとも一流じゃあない」みたいな印象を受けるのだそうです。
そりゃ、ラッパの「レ」も違うはずです。
そのファーストネームが前回も書いた様に「アレクサンダー」です。ギリシャ語の「Aléxandros」ですが、これは動詞の「Aléxein(保護する)」と名詞の「Andròs(男)」の組み合わせ。もうどう見ても大王様の為の名前ですよね。ただ、この名前のもつ性格というのは、案外熱狂的で落ち着きがなく、プライドが高く自信家、そしてあらゆる冒険に飛び込む…… ああ、居ますね。 こういう人。 面白いですが騒々しい。熱量が高そうな名前ですね。
偉大なファーストネームとへなちょこな姓の組み合わせ。これだけで、ずっとふざけ続けているショナールの人柄が判るような気もしますよね。

コッリーネについては、前回あらかた書いてしまったので、あまり残っていないのですが、グスターヴォとは、「ゴート族の大黒柱、首領」の意味を持つ、スウェーデン起源の名前で、その名の通り、君主に多いそうです。
持っている名前の性格でも、大地に足をおろし眼差しを天に向けるもの、と言われています。大掛かりな計画を立てることを愛し、実行すると。  同じ大王でも、騒々しいアレクサンドロスとはちょうど反対に居るようですね。
やはり4人の中でも 一番肝が据わっているのかもしれません。

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名作オペラブックス(6)プッチーニ ボエーム

【名前の話はここには載っていませんけれど…】2005年に発売された、オペラファンにとってはめちゃくちゃ有能なサポートブックでした。
現在は さすがに絶版となってしまったので、図書館か古本で探すしかありません。
それでも リブレット(まあ、改訂版が出ちゃっているものも多いんですが)やト書き、当時の裏話など、とても興味深いネタはたくさん掲載されている本です。どこかで見かけたらぜひ手にとってみてください。