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登場人物の名前ネタ

【Turandot:Vol.4】姫さまの名前は「朶」!?

トゥーランドットという姫の名前なんですが、どうにも中国の姫のような気がしないんですよね。どこの名前なのかしら?とずっと不思議でした。
ムーラン、という映画があります。これは中国の伝説的な佳人で武人「花木蘭」をモデルにしたディズニーのアニメーションですが、個人的には花木蘭とムーランがなかなか結びつかなくて、あるときに「木蘭」=「ムーラン」と気づいてびっくりしました。

京劇 姫君
Photo by Jimmy Chan

※ここからは妄想です。しばらくお付き合いください。

『ではでは、トゥーランドットのトゥーランは「トゥー」+「蘭」なのか!ムーランがマグノリアなら、トゥーランは「钍蘭tǔlán(シンビジウム)」ではどうだろう?綺麗じゃない?
ふむふむ、となると「ドット」はなんだ??そうだ、この間読んだ小説の皇后の名前は独鈷だったな。中国には珍しい二文字姓だけどよくない??。そう、家名。西洋式にひっくり返っているとなると、「トゥラン・ドッコ→独鈷钍蘭」なんていいかも』などと、色々と妄想しておりました。 —–以上 あくまでも妄想です。

閑話休題。1998年に張芸謀監督が演出をした際に、「中国公主杜蘭朶(Zhōngguó gōngzhǔ dù lán duǒ)」と記載されていたそうです。

おお、中国人が選んだ漢字がある!
となるとわかりやすくなりますね。(いや、こんなに前のことだったんですね。もっと早く気付けよ、です。)

「中国公主」とは、中国のお姫様の意味です。

「杜蘭」「朶」と切るか、「杜」「蘭朶」と切るか悩みどころなんですが…(台湾のホテルに「馥蘭朶春秋烏來」という名前のホテルがあったり、小説家に「塁 蘭朶」という方もいらっしゃるようで、「蘭朶」と切ることもあり、なのでしょうが)一応、ここは「杜蘭」で切ります。原典といわれるペルシャの物語(オリジナルは散逸しているようです)では、姫の名前は「トゥーランの姫君」となっているだけで「トゥーランドット」という名前は、フランソワ・ペティ・ド・ラ・クロワの『千一日物語』(こちらもすでに失われているようです)か、ゴッツィがヨーロッパに紹介するときに付けたようです。「ドット」はどこからきたんじゃい!

「杜蘭」という言葉、調べてみると「石斛(セッコク:デンドロビウム)」の別名のようです。「朶」とは「花」「輪」の意味(辞書によって変わります)。石斛とは蘭科の植物で、生薬にもなるようです。薬効はざっくり言って「消炎、強壮強精剤、および美声薬」とあります。「滋養強壮力のある美声にも効いちゃうお花」な姫君です。そっか。だからテノールがみんな一目惚れするんだ(ペルシャの王子もカラフもテノールです)。トゥーランのお姫様は、薬というより毒に近いとは思うんですけれどねえ。英雄と出会うとちょうどいい感じの薬になるのかもしれません。

とはいえ、これはあくまでも張芸謀監督が選んだ漢字。もともとはおそらくそんなことは全く考えてなかったのか、ペルシャで生まれた昔話ですから根本から違うようです。(先に書いておけと…)

トゥーランドット(元となった昔話の名前ではトゥーランドフト)とは「トゥーラン国(ラテン文字: Tūrān, ペルシア語: توران‎)」の「娘 (ペルシア語:دختر、ドフトル) 」からきているそうです。
欧州FAQ「ハンガリーの質問:トゥラニズム」

また、トゥーランドットについて、色々と書かれている多くの方が引用もしている「香川大学経済論叢『トゥーランドット物語の起源』」にもフランソワ・ペティ・ド・ラ・クロワ(François Pétis de la Croix:1653~1713)の『千一日物語』(Les Mille et un Jour)の中の「カラフ王子と中国の王女の物語」(Histoire du prince Calaf et de la princesse de la Chine)についての解説として「トゥーラン(トルキスタン)」+「フランス語の学者という意味では?」として書かれています。この研修ノートは大変面白いのでぜひご一読をお勧めいたします。
っていうより、この文書があればこっちのブログいらないじゃん。。。。。 orz

今回は本当に役に立たないお話ですが、表意文字の漢字で書かれる人の名前って面白いですね。

Turandot チャン・イーモウ演出の世界

【ちょっと違った角度から見るトゥーランドット】

トゥーランドット~チャン・イーモウ演出の世界~

1998年に北京の紫禁城(オペラでも紫の城として登場していますよね)で上演したオペラプロジェクト、張芸謀監督の挑戦を追ったドキュメンタリー映画。
指揮者 ズビン・メータが中国、紫禁城でのオペラプロジェクトの演出家として白羽の矢を当てたのは、映画監督、張芸謀だった。。。

【閑話休題】名前小ネタ

ボエームといえば、若者の群像劇です。なので、基本、登場人物は皆若者です。もちろん、農家のおかみさんや物売り、モミュスのお客には年をとった人も出てきますが、名前のある人は若者が基本。その中で、名前はあるけれど若くない人間がふたりいます。ともに、若者から見たら最も忌むべき人間です。つまり、年を取り、小金を持ち、愛ではなく女を連れ歩くことを喜ぶ、彼らとは真逆の人たちです。1幕の大家さん、ベノア、2幕のムゼッタの愛人アルチンドロです。それだけで若者たちのあざ笑いの種になっています。 4幕にはムゼッタやミミの愛人らしき人はいたはずですが、彼らをあざ笑ったりする心のゆとりがもうなくなっていたのでしょう、名前も影も見えてきません。

§ベノア

1幕で3ヶ月分の家賃を請求にきたのに、安いワインで酔わされ、ついつい若いグリセットとデートしていることを白状させられた結果、家賃踏み倒されてしまう気の毒な老人です。
そもそもは、フランス起源の名前です。原作でも、ブノワとしてそのまま出てきます。イタリア語では「Benedetta: 祝福された」という意味があります。
クリスマスの晩に、3ヶ月分の家賃を取り損ねるのだから、ボエームに於いては、当然、アイロニーに満ちた名前ですね。

§アルチンドーロ

2幕でムゼッタにルル!と子犬のように呼びつけられている、お金持ちで、身分もありそうな紳士です。二人だけの時には、きっとルル!と呼ばれると ワン♥とでも答えていたのでしょう。

アルチンドーロとは、Alcindo と Oro とに分けられると思われます。Alcindo は「強い性格」と言う意。Oro は「黄金」と言う意味です。いかにもプライドが高くて小娘(ムゼッタ)に引きずり回されること自体、憤懣やるかたないというのがよくわかります。 ということで、ムゼッタを含む若者たちにとって、体良く追い払った挙句、モミュスの払いくらいさせても良心の欠片も痛まないところなのです。

【Boheme:Vol.4】もうひとつのボヘミアンな名前物語 ネタ編

その名前を聞いただけでどんな人かイメージすることがありますよね。小説などでも主人公の名前は、そのキャラクターや物語に合わせて付けられているように思います。
そして、やっぱりオペラの登場人物も、そのキャラクターを意識した名前が付けられているようですよ。

ミミの本当の名前は「ルチア」ということはもう良いですよね?
ルチアとは、ラテン語のLUX(光)、古代ローマでは「夜明けの最初の光の子」に名付けられる名前だそうです。
ミミのアリアでも言いますよね。「4月のはじめての(太陽の)口づけは私のもの!」。本当にそのまんまですね。
理解されている名前の印象としては、おしゃべりで時折空気が読めてなくて、恋にちょっとあぶなっかしい……
とってもチャーミングな名前のようです。

そして、その恋人のロドルフォなんですが、こちらはドイツの古い名前、Rudolf(Rhood-Wulf) そう「栄光に満ちた狼」。戦場の勇者であり、王者の名前です。印象として、夢多き理想家でありながら激情家、繊細な心を持ちながらも大胆な冒険をする活動家に与えられる名前のようです。

このカップル、これはなかなか大変な大ロマンスの起きる名前ですよね。 オペラの中でも、モミュスのシーンで、ちょっとミミが空気を読めないでマルチェッロをイラっとさせたりもします。そして、ロドルフォの夢多き夢想家ぶりと来たら!
また、狼の属する夜には朝日は属すことはできないのです。(悲)

若い画家
Photo by Antenna

さて、もう一組のカップル。 ええそうです。 ムゼッタとアルチンドロヾ(^_^;;  違いました、ムゼッタとマルチェッロです。 こちらも名前でみる相性診断がとっても面白いことになっています。

本名が判らないので、ムゼッタはそのままムゼッタで判断するしかありません。牧歌的なワルツ、また、その楽器としてのミュゼット、というお話は前回致しました。
ところで、もう一つの名前の読み解き方もあるんです。
ムゼッタの語尾の「ッタ」は、「可愛い◎◎ちゃん」というように愛称化するときに付けるものです。となると、ムゼッタは「可愛いムーサちゃん」となります。ムーサといえばギリシャ神話の「ミューズ」ですね。
そう、芸術や詩の女神です。美人でキュートで自由。
確かに、ムゼッタは詩のインスピレーションの源泉そのもののです。もしかして ロドルフォと恋に落ちていたらとんでもない事になっていたかもしれませんね(笑;;;;

片やマルチェッロ君。

お分かりになる方もそろそろ出てこられたかしら? ローマの軍神マルテ(マルス)を語源とするマルクスからきた、小さなマルクス。これはラテン語でMarcellus(マルチェッルス)「小さな金槌」を意味するようになって、やはり戦いを連想させる、ローマ貴族の名前となります。
名前の印象として、繊細で慎重だが、一度信頼すると一気に愛情深くなり、現実より理想の世界を愛する、となっています。たしかに マルチェッロってそんなところありますよね。

となると、どう考えてもこのカップル、上手く行く筈ないんですよね
ミューズの娘と軍神の子ですから……
とはいえ、短い間、インスレーションを与え合うという意味では、瞬間的な激しい恋愛感情をかき立てられる相手の様です。モミュスで再会した際、マルチェッロは「セイレーンよ……」と呼びかけます。やっぱりムゼッタは歌そのものなんですね。(セイレーンは、ある説では、ムーサの娘とも言われています。あくまで一説ですが)

ムゼッタは言います「マルチェッロは私には『たまに』とっても必要になるの」
あら ずっとじゃないんだ……(´・ω・`)

せんだって、とあるイタリア人に「ねえ、ショナールっていう名前を聞くと、どんな印象もつ?」と聞いてみたところ、「そうね〜 なんだか『へっぽこ』っていうような感じを受ける名前なのよね。」つまり、ショナールという名前そのもので「へっぽこ音楽家、少なくとも一流じゃあない」みたいな印象を受けるのだそうです。
(^m^) そりゃ、ラッパの「レ」も違うはずです。
そのファーストネームが前回も書いた様に「アレクサンダー」です。ギリシャ語の「Aléxandros」ですが、これは動詞の「Aléxein(保護する)」と名詞の「Andròs(男)」の組み合わせ。もうどう見ても大王様の為の名前ですよね。ただ、この名前のもつ性格というのは、案外熱狂的で落ち着きがなく、プライドが高く自信家、そしてあらゆる冒険に飛び込む…… ああ、居ますね。 こういう人。 面白いですが騒々しい。熱量が高そうな名前ですね。
偉大なファーストネームとへなちょこな姓の組み合わせ。これだけで、ずっとふざけ続けているショナールの人柄が判るような気もしますよね。

コッリーネについては、前回あらかた書いてしまったので、あまり残っていないのですが、グスターヴォとは、「ゴート族の大黒柱、首領」の意味を持つ、スウェーデン起源の名前で、その名の通り、君主に多いそうです。
持っている名前の性格でも、大地に足をおろし眼差しを天に向けるもの、と言われています。大掛かりな計画を立てることを愛し、実行すると。  同じ大王でも、騒々しいアレクサンドロスとはちょうど反対に居るようですね。
やはり4人の中でも 一番肝が据わっているのかもしれません。

【名前の話はここには載っていませんけれど…】

名作オペラブックス(6)プッチーニ ボエーム
2005年に発売された、オペラファンにとってはめちゃくちゃ有能なサポートブックでした。
現在は さすがに絶版となってしまったので、図書館か古本で探すしかありません。
それでも リブレット(まあ、改訂版が出ちゃっているものも多いんですが)やト書き、当時の裏話など、とても興味深いネタはたくさん掲載されている本です。どこかで見かけたらぜひ手にとってみてください。

【Boheme:Vol.3】ボヘミアンな名前物語

少女 ミニヨン
Photo by cottonbro

「私、皆に『ミミ』って呼ばれていますの。 「でもね、本当の名前はルチアって言うの。」
「何故ですって? 知らないわ。」

オペラをお好きな方たちにはあまりにも有名なアリアですね。
ルチアがどうしてミミ?? と思った方もいらっしゃるのではありませんか?

ミミとは「mignonne(ミニヨンヌ)」の省略形です。
あら、「君よ知るや南の国」かのゲーテのミニヨンと同じですね。
「おちびちゃん」とか、「可愛い子ちゃん」というようなニュアンスの呼び名で、日本なら「ポチ」とか「チビ」って、子犬につけたりしますよね。そんな感じでしょうか。小柄で可愛い女の子のイメージですね。

ムゼッタもどうやら本名ではなさそうですよ。
フランス語ではミュゼット「musette」となります。
ミュゼットって、フランスの民族楽器でバグパイプみたいなものがあります。つまりバグパイプ娘さん。
私が昔聞いた時は、ピーピー煩い娘だから、という、2幕のシーンを基準に名付けられたって言われたのですけれど
もうひとつ、その楽器のための音楽やダンスも意味するそうです。主に三拍子で、牧歌的な、ちょっぴり田舎っくさいワルツ、といったところのようです。
ムゼッタって、やっぱりワルツなんですね。女性陣は皆さん本名ではなく、通り名だった訳です。 ここにもちょっと秘密がありますけれど、それはまた別の時に。

ところで、名前といえば、ボエームの主役達、つまりボヘミアン生活をする若者達—ロドルフォ、ショナール、マルチェッロ、コッリーネ… こちらもちょっと面白い組み合わせです。ロドルフォとマルチェッロは、すぐにわかりますね。
フランス語ではルドルフとマルセル。あきらかにファーストネームです。「ルドルフ」はええ、もちろんサンタクロースのトナカイ…じゃなくて 高地ドイツ語の名前「勇猛な狼」を意味する英雄や皇帝の名前です。マルセルはもちろん「軍神マルス」が語源といわれています。 ふたりともすごい名前ですね。

ところで、残りのふたり、コッリーネとショナール。こちらは、ファーストネームではありません。姓の方です。まあ、日本でも友達同士でファーストネームで呼ばれる人と苗字で呼ばれる人がいますよね。 その感じでしょうけれど、
ちょっとファーストネーム、知りたくありませんか?

まず、コッリーネ(コルリーネとコッリーネのちょうど中間の発音です。コ「ッ」っていってる間にちいさく「ル』と言います。難しいですね。)名前はリブレットにありました。
リブレットは、スタンフォード大学のライブラリーで見つかります。

その第二幕の最初に
「グスターヴォ・コッリーネ、偉大な哲学者……」 とあります。
なんと!こちらもまるで王族のような名前ですね。
つづいて「画伯マルチェッロ、大詩人ロドルフォ、大音楽家ショナール…… 彼らは互いにそう呼んでいた–」とちょっとシニカルな書き方をしています。

そうでした。もうひとり、名字の人が居ました。
そう、ショナールです。彼もファーストネーム、ありますよ。
コッリーネのグスターヴォもけっこうびっくりなんですが、ショナールが、なななんと、

アレクサンドル・ショナール……

イタリア語だと、アレッサンドロですね。意味はギリシャ語の「男達を庇護する者」戦士の守護者ヘラの称号でもあったようです。実際に、モデルはミュルジェの友人、アレクサンドル・シャンヌだそうでいい加減につけた名前ではないんですが、アレクサンダー大王の名前を頂いています。

4人とも素晴らしく立派な名前を持っていたのですね。

若者たちは、すべからく勝利者の名前を持ち、娘たちがふたりとも通り名を使っている。これがボエームのひとつの秘密になっています。

【がっつり読み込むととても面白い】

名作オペラブックス(6)プッチーニ ボエーム
2005年に発売された、オペラファンにとってはめちゃくちゃ有能なサポートブック。
現在は さすがに絶版となってしまったので、図書館か古本で探すしかありません。
それでも リブレット(まあ、改訂版が出ちゃっているものも多いんですが)やト書き、当時の裏話など、とても興味深いネタはたくさん掲載されている本です。どこかで見かけたらぜひ手にとってみてください。

【Turandot:Vol.1】君の名は

Chinese Dragon
Photo by Kulik Stepan

トゥーランドットのヒーロー、テノール役には「カラフ」とキャスト表には書いてあります。 そう、観客もたいてい王子様役のこと、カラフと呼んでいますよね。
ところが! スコアにはずーーーっと「カラフ」とは書かれていません。おお??

楽譜を見ると、なんと、「王子(principe)」または「名を秘めた王子(principe ignoto)」とだけ書かれています。
そして、3幕で姫に自分から「私はカラフ、ティムールの息子」と名乗ります。その時にはじめて、楽譜上でも「カラフ(Caraf)」と書かれるようになります。
ボーカルスコアでは、298ページの2行目と3行目をご覧ください。(版によっては多少のズレがありますのはご容赦くださいまし。)

確かに1幕ではリューも、ティムールも、「ご主人様!」や「息子よ!」としか呼びかけていませんよね。
リューが「私だけが名前を知っています!」と叫んだとき、「奴隷が知る筈がない!!」と(とんでもない奴ですが……)カラフは叫びます。なるほど、当然ですね。だって、ほんっとにそれまではだ~~~~~れも、オーケストラも、指揮者も、名前を知らないんですから。

[ご参考までに]プッチーニ: オペラ 「トゥーランドット」全曲版スコア リコルディ社
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