ヨーロッパ田園風景

愛の妙薬 あらすじ《じっくりと》

第一幕

バスク地方のとある小さな村。刈り入れ作業を一休みしている農民たちの合唱(ジャンネッタが合唱ソロを歌う)。彼らとは少し離れたところで、村一番の美人で文字も読めると評判の裕福な家庭の娘アディーナがひとり本を読んでいる。農民たちに混じって、ネモリーノアディーナの様子を伺いながら登場する。

ネモリーノが独り言のように『なんって綺麗なんだ。なんって可愛いんだ!』とうっとりしていると、突然アディーナが読んでいる本が面白いのと笑い出す。ジャンネッタや農民たちにせがまれて『トリスタンとイゾルデ』の一説を読み聞かせ、「こんな飲めばたちどころに恋が成就する愛の妙薬なんてあったらすごいわね!」と歌う。

その時、太鼓の音がして、村はずれに駐留している部隊の軍曹ベルコーレが小隊を率いて登場する。
ベルコーレは早速この村で一番可愛らしいアディーナに目を付け、花を差し出して挨拶をする。『昔、パリスがしたように』と、スパルタ王妃ヘレネーとトロイアのパリスの逸話を元にしたキザで自惚れた歌で、アディーナに求婚する。アディーナは、なんって紳士なのかしら?とちょっといい気分になり、ネモリーノは焦りまくる。ぐいぐいと迫ってくるベルコーレをうまくあしらい、農民たちへは休憩が終わったので仕事に戻るよう伝えると、ネモリーノとアディーナの二人を残し全員退場。

 二重唱『一言だけ ねえアディーナ~そよ風に聞いてご覧』ネモリーノは自分のモヤモヤを抱えたまま アディーナを置いて病気の叔父さんのところへ行くことができない。アディーナは「叔父さんが遺産をくれなくなったらどうするの?さっさと町のおじさんのところに行きなさい。お人よしで謙虚。あなたはとても良い性格をしているけれど、私には退屈なのだから、私のことなんか諦めなさいな」と、心の奥底ではネモリーノのことは好ましいとは思っていても、表面上では冷たくあしらう。

 「Osteria della Pernice(居酒屋「山うずら亭」)」が片隅にある広場で村人たちが行き交っている。トランペットの音が舞台の外から聞こえてくる。人々がなんだろうと出て来て噂話に興じる。なんだ?すごい豪華な金ピカの馬車だ、すごい紳士が乗っているぞ、ものすごい立派な衣装を着ている。きっと偉い人に違いない‥ さあ、帽子をとって敬意を示そう! 

 森羅万象に通じた偉大なドゥルカマーラ博士であると名乗る人物が、トランペットを持つ召使を従えて登場する。ドゥルカマーラは村人たちの無知をいいことに『お聞きなされよ皆の衆』巧みな宣伝口上で、あやしげな瓶をありとあらゆる悩みに効く特効薬として売り捌く。薬を手に入れた人々が去るとドゥルカマーラや居酒屋へと入ろうとする。

愛の妙薬? いや、ボルドーでしょ?

 ネモリーノは精一杯の勇気を奮って声をかけ、そんなに万病に効く薬を持っているなら、イゾルデの愛の妙薬も持っていないか?と聞く。なんという僥倖!カモがネギ背負ってやって来たとばかり安いボルドー酒を示してこれがその魔法薬だと見せつける。ネモリーノの手持ちは1ゼッキーノしかない。にやけないように注意しながらちょうどその金額だと売りつけ、飲み方の注意事項や明日になったら薬が効くが、誰にも話してはいけないと約束させる。ドゥルカマーラは当然明日には逃げ出すつもりである。

 一人になったネモリーノはドキドキしながら言われた通り瓶を振ったのち一口、さらにもう一口飲む。
呑み慣れないワインにとても良い気分になって、ついつい鼻歌を歌ったりする。『ランラランラランランラララー🎵』

 そこへアディーナ登場。あのへんな人間は誰?と近づくが、明日にならないと薬の効き目が出てこないはずなので、ネモリーノは知らない振りをし、明日になればアディーナは僕に夢中になるんだからと気が大きくなっていると、そこへベルコーレが登場したのを見つけると、プライドを傷つけられたアディーナは当てつけにベルコーレに「あなたの求婚を受けます」と伝える。そこへ伝令がやって来て、部隊は明日移動するという命令を受けると、ベルコーレは明日出発せねばならないから、今日中に結婚しよう!とアディーナに迫る。アディーナは躊躇うがネモリーノが突然焦りまくっているのを見て、当てつけのように結婚を承諾する。ネモリーノはせめて明日まで結婚は待ってくれと縋り付くがあっさり蹴られてしまう。必死にドゥルカマーラのことを呼び続けるネモリーノを見て、そこにいる皆はとうとう壊れたか?と呆れられてしまう。
アディーナは公証人を呼びましょうとベルコーレと共に退場してしまう。

第二幕

アディーナとベルコーレ軍曹の婚礼の場。宴会に招かれた農民たちが陽気に歌っている中にちゃっかりドゥルカマーラもお客として着席している。一方アディーナはそこにネモリーノがいないことを不満に思っている。徐にドゥルカマーラが立ち上がり、花嫁を借りて余興をしようと提案する。そこにいる誰もが大喜びをすると、ドゥルカマーラはアディーナに台本のような小冊子を手渡し、ゴンドラ乗りの娘ニーナと元老院議員のトレデンテ氏の舟唄『わしは金持ち そなたは美人』というコントのような二重唱を披露し、宴会は大盛り上がりする。

そこへ公証人が登場。それを見てアディーナが焦る(ネモリーノがいないじゃない!~そもそもの目論見はネモリーノに見せつけてやることだけだったので~)がベルコーレに急かされて結婚契約書にサインをしに連れて行かれる。

ドゥルカマーラは一人残ってご馳走を摘んだりして良い気になっている。そこへネモリーノが登場。公証人がいたことに絶望し、ドゥルカマーラになんとかしてほしいと縋り付く。効果は明日になったら現れるとはぐらかされてしまうが、それでもめげずに今すぐに効果がほしいと迫ると、ドゥルカマーラにそれではもう一本薬を飲むと良いと言われる。だが、ネモリーノにはさっきドゥルカマーラに渡した1ゼッキーノが最後のお金。もう文無しだと言うと「それでは用無し、お金ができたら来い」と言ってドゥルカマーラ退場。

ネモリーノがしょんぼりしていると、アディーナに時間稼ぎをされたベルコーレが頭を捻りながら登場。
ネモリーノは、ベルコーレに、ついついお金がなくて絶望していると漏らすと、それならば兵士になると良い、即金で20スクード支払うと言われる。ベルコーレとしても、恋敵を軍隊にぶち込んで邪魔することくらいする。ネモリーノは目の前に出された20スクードを見つめて、仕方なく兵士になるとサインをしてしまう。(ネモリーノは文字が書けないので、書類に大きな×を書く)

その頃、ジャンネッタが若い娘たちを集めて噂話をしている。「行商人が持って来た噂だけど、まだ誰も知らないから広めちゃだめよ。ネモリーノの叔父さんが亡くなって、彼に莫大な財産が残されたって。」
突然降って湧いた玉の輿のチャンスに娘たちは内緒、内緒と言いながらざわめく。

一方、手に入れたお金を愛の妙薬と交換して、安酒をたっぷりと呑んだネモリーノがフラフラと登場。娘たちがチャンスとばかりにちやほやするので、ネモリーノはこれこそ愛の妙薬の効果が現れたに違いないと勘違いをしてしまう。そこへアディーナとドゥルカマーラが別々の方向からやってくる。ネモリーノはドゥルカマーラの薬のおかげだと感謝し、ドゥルカマーラもまさかの結果に驚く。この調子ならきっとアディーナも自分に靡いてくれるとネモリーノは変な自信を持ってしまう。

この状況にびっくりしたアディーナは、ドゥルカマーラに一体何をやったの?と問いただす。自信たっぷりなドゥルカマーラは、自分は「イゾルデ女王」の妙薬を持っており、ネモリーノはその薬を自分の自由を売った金で贖ったのだと話す。そのことを知ったアディーナは、自分がなんという残酷なことをしていたのかと衝撃を受け涙をこぼす。その様子を見たドゥルカマーラは、アディーナにもその薬を売りつけようとするが、私にはそんなものは必要ない、私のこの笑顔、眼差しこそが彼にとっての妙薬なのよと退ける。

娘たちの集団から逃れてやって来たネモリーノがその様子をこっそり覗いており、アディーナの涙を見て彼女の愛を感じ取り、これ以上何を望むんだ、だけど彼女が自分にときめきを覚えてさえくれるならもう死んでも良い、もうちょっともうちょっとだけ様子を見てみようかと、この作品中珠玉の名曲とされているアリア『人知れぬ涙』を歌う。

ネモリーノのところへアディーナがやってくるのを見て、ネモリーノはいよいよだぞ!と期待する。ところが、アディーナはなぜ兵士になろうとなんかしたのかと問い詰める。自分の運命を切り開くためと言うネモリーノに入隊契約書を差し出し、あなたの軍隊への契約書は私が買い戻して来たわ『受け取って、これであなたは自由よ』と言い、さあ、いよいよ愛の告白かな?とわくわくしているネモリーノに「じゃあね」と去ろうとする。

思いがけないアディーナの態度にびっくりしたネモリーノは、アディーナに愛してもらえないんだったら生きていく甲斐なんてないから、兵士になって死んだ方がマシだと心情を吐露すると、たまらなくなったアディーナもついにネモリーノのことが大好きで幸せにしてあげたいと思っていると伝える。

そこへ小隊を引き連れたベルコーレを始め登場人物全員が登場。なにをしているんだ?と驚くベルコーレに申し訳ないけれどこの人が夫になるから諦めてちょうだいねとアディーナが返す。ベルコーレはあっさりと認め、この世の中には何千人もの美女がいる、と嘯く。

ドゥルカマーラが「これぞ吾輩の持つ妙薬の力。一文無しの若者がたちまち大金持ちになったのも」と胸を張ると、叔父が亡くなって遺産が入ったことを、ネモリーノたちは初めて知る。

ドゥルカマーラが結婚式の余興で歌った「わしは金持ち~」のメロディーで、愛の妙薬と自分自身を讃美し、村人たち全が愛の妙薬を讃え、愛とお金も手に入る妙薬とやらを争って買い求める。一人ベルコーレだけが「イカサマ師め、くたばってしまえ!」と喚く中、ラッパを吹く召使を従えてドゥルカマーラの馬車が村を去ってゆく。

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【愛の妙薬を手に入れたら!!】
やっぱり大切にしまっておかないとですよね。それも日本の夏は暑いですから、ペルチェ式よりコンプレッサー式がお勧めです。え? だって、愛の妙薬って中身はボルドー‥‥

ドニゼッティ:歌劇「愛の妙薬」全曲 [DVD]

【伝説的に貴重な映像データ】
第二回NHKイタリア歌劇団の公演。1959年2月8日東京文化会館でのライブ。
ネモリーノといったらタリアヴィーニと言われるほどの甘い、ナイーヴなネモリーノ。美貌のアディーナに、誰よりもすっとぼけなモンタルソロ。最高のキャストです。惜しむらくは映像も録音も60年以上前のもののため決して品質は‥どうかご理解願います。

指揮:アルベルト・エレーデ
演奏:NHK交響楽団
演出:ブルーノ・ノフリ

アディーナ:アルダ・ノニ
ネモリーノ:フェルッチョ・タリアヴィーニ
ベルコーレ:アルトゥーロ・ラ・ポルタ
ドゥルカマーラ:パオロ・モンタルソロ
ジャンネッタ:サンタ・キッサーリ