ヨーロッパ田園風景

Money! Money! Moneyで「ゼッキーノ」「リラ」「スクーディ」という貨幣単位が出てきましたが、はて、実際のところどのくらいの価値があったのでしょうか? 20スクーディあれば、兵役の支度金となり、1ゼッキーノあれば、実演販売員がソワソワし、3リラあれば、万能薬(出どころ不明の多分栄養剤)が手に入る。
この当時の人たちって結構頑張りましたねえ。こんなにややこしいお金の単位で生きていたなんて。まあ、私たちも、日本円のほか、アメリカドル、ヨーロッパのユーロ、中国の元、韓国のウォン‥ そうやって考えれば似たようなものかもしれませんが‥
でも、計算機なんかなかったのにすごいですね。

まずはこちらを先にお読みください
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【愛の妙薬】Money! Money! Money! オペラの中でも神話の時代をテーマとしたオペラや英雄譚以外、特に近代以降のお話を扱っているイタリアのオペラには、案外とお金……

私たちが「大判」「小判」と聞いた時、まず金貨をイメージしますよね?「和同開珎」と言えば、銅銭(銀もあったらしい)「1分銀」と言われたら、中にはちょっと迷う方がいらっしゃるかもしれませんが、、銀貨と答えられるでしょう。
同様に、ヨーロッパの人たちは、「ゼッキーノ」とか「スクード」と言えば、どんな貨幣だったか、すぐ判ります。なぜなら、これらはヨーロッパで流通していた、当時の代表的な貨幣だったからです。

ゼッキーノ《Zecchino》

ということで、ゼッキーノです。

ゼッキーノ/ゼッキーニはヴェネツィア共和国で作られたお金です。フィレンツェのフローリン金貨と並び、当時最高級の金貨でした。最高純度の金の精製ができたのがこの2都市だったからです。この金貨ならヨーロッパ中どこの国、町へ行っても有り難がられ信用された金貨だったわけです。それで『愛の妙薬』のバスク地方の多分小さな集落であっても差し出せばちゃんと価値をわかってもらえたわけです。(ネモリーノがその価値をどのくらいと理解していたかは不明ですが)

1ゼッキーノのサイズなどについては、以下の通りです。

  • 重さ:3.5g
  • サイズ:直径 20mm
  • 成分:金
  • 鋳造年:1285-1797年

ゼッキーノは、16世紀前半までドゥカート金貨として知られたヴェネツィアの硬貨で、外国との貿易に広く使われていた。ヴェネツィア共和国では、ドージェ*1であったジョヴァンニ・ダンドロの統治下の1285年から、フィレンツェのフローリン金貨と同じ重量と名称で発行された。

16世紀以降、それまでのドゥカート(ダ・ドージェ)金貨*2に代わって使用されるようになった名称は、その発行を担当する組織であるゼッカ*3に由来する。

  1. ドージェとは、ヴェネツィア共和国、ジェノヴァ共和国における統領のこと。この場合、ヴェネツィア共和国統領を示す
  2. 新たに鋳造されたドゥカート金貨の価格が、1543年に7リラと12ソルディに引き上げられた際、ゼッキーノ金貨と呼ばれるようになった。他に、ドージェがフランチェスコ・ヴェニエ(1554年 – 1559年)の時代に、初めて公にゼッキーノと呼ばれるようになったとの説もある
  3. ゼッカ zecca とは造幣局のこと

1284年10月31日の四十人委員会の布告により、重量3.545g、純度24カラット、すなわち純度997‰(当時の最高純度)が定められ、図像の基準はドージェと6人の評議員に委ねられた。
表面には、街の守護者である聖マルコと、聖マルコの前に跪くドージェの姿が描かれている。前者(聖マルコ)はドージェに街の旗を差し出し、もう片方の手には福音書を握っている。その周囲には、「S M VENET(I)」*1という伝説とドージェの名前がある。そして杖に沿って「DUX」*2という文字が記されている。裏面には、星が散りばめられたアーモンド形の輪光に包まれた祝福のキリスト像と、’SIT T XPE DAT Q TU REGIS ISTE DUCAT’(あなたに委ねられますように、おぉキリストよ、あなたの治めるこの公国が)という伝説が記されている。

  1. 「S M VENET(I)」とは「Sancutus Marcus VENETI」の略で「ヴェネツィアの聖マルコ」の意
  2. 「DUX」はリーダー、指導者の意。どちらもラテン語

これらの特徴は、1797年まで500年間ほぼ変わることなく、地中海の商業市場で流通する最も格式の高い金貨であり続けた。

もちろん舞台となった、スペインバスク地方で本当に流通していたか、特にネモリーノのような農民の少年が本当にその価値をわかって持っていたかは分かりません。ただ、はっきり言えるのは、一幕で、ネモリーノがドゥルカマーラに「1ゼッキーノしか持っていません」と言った時のドゥラカマーラの驚きは、いかほどであったか… 

ええっ?まさか? 本当に?? コイツが? マジ? あれ? コイツ本当に価値わかっているんだろうか?

こんなことが頭の中を駆け巡ったに相違ありません。(その間0.5秒)
つまり、江戸時代の農民が、小判を持っていたに等しいのです。そりゃびっくりしますよね。

このゼッキーノと言う貨幣は、他のオペラでも出てきます。例えばモーツァルト作曲のオペラ『コシ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)』にも「女性に貞節があるか?否か?(男がどんだけアホかを証明するため!)」で男どもが100ゼッキーニを賭けます。その他の文学作品にもちょくちょく出てくる貨幣単位です。イタリアの貴族が出てくる時は、出やすい貨幣単位なのかもしれません。

さて、実際の現在のゼッキーノの価値はどのくらいになるのでしょう?
現在(2024年4月)の金の相場(売りと買いの平均:金1g=¥12,800)に換算すると、1ゼッキーノ=約 ¥44,800 になります。また、1ゼッキーノ金貨を古銭で販売しているところで見ると、5,2000円となっていました。実際の金の価格とはまた違った価値が載せられているからなのですが、そのあたりから見ても、だいたい4万5千円前後というのは理にかなった金額かもしれません。
当然、世界情勢によって金の価格は上下します。現在は社会不安からか、高騰どころか暴騰しています。2020年にはたしか半分くらいの価格だったように思いますので、今後暴落して1ゼッキーノは3万円を切るかもしれませんね。

写真素材の良いのが見つかりませんでしたので、写真をご覧になりたい方は、申し訳ないですが、Premium Gold Coinさんの「ヴェネツィア1750年頃の20ゼッキーニ金貨」の記事をご覧ください。とても綺麗な写真が掲載されています。こちらの写真は20ゼッキーニなので、大きいです。

外部サイト:金貨ブログ
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スクード《Scudo》

スクードもヨーロッパで流通していた、代表的な貨幣です。「スクード scudo(複数形:スクーディ scudi)」とは「盾」のことです。中世ヨーロッパの戦記ものの映画とかを見ると、盾に紋章などが描かれたりしているの見たことありませんか?あの貨幣版のようなものです。
ヨーロッパには、沢山の王、諸侯貴族がおり、みな独自の家紋を持っていました。それぞれが彼らの土地を治めておりましたので、その分だけ貨幣もありました。日本で言うところの藩札のようなものだとお考えください。

スクード(フランス語では「エキュ écu」、スペイン語とポルトガル語では「エスクード escudo」)は、いくつかの種類の金貨と銀貨の名称である。発行した当局の高貴な紋章が描かれていたことから、このように呼ばれるようになった。

この名称はフランス国外にも広まり、イタリア、オーストリア=ハンガリー、サヴォワ、ローマなどで使用された。

スクード金貨

フランスにおける最初のエキュ金貨は、ルイ9世のものである。その後フィリップ6世とシャルル9世のものが、重さも価値も異なって作られた。3リーブルの価値があり、1640年のルイ金貨が導入されるまで使われていた。

スクード銀貨

この名前は一般に大硬貨(Piastre : 16世紀のイタリアのピアストラ銀貨[金貨]Ducatoni : 16世紀にヨーロッパ各地で作られた大型銀貨ドゥカトーニTalleri : ドイツ、オーストリアで15~19世紀に流通したターラ銀貨、など)を指し示す。

フランスでは1642年から、約25グラムの大型銀貨が鋳造され、この名前で呼ばれた。10進法による貨幣単位フランの導入にともない、スクード銀貨は5フランの価値とされた。

註:日本の従来の500円硬貨の重さは、7.0グラム。新500円硬貨は、7.1グラム。スクード銀貨は直径41~43mmくらい、重さ32グラムくらいのものもあった。

通貨スクードの終わり

18世紀以降、スクードと言う名称は、封建君主や発行当局の紋章が付いた大型の銀貨に使用された。19世紀の貨幣鋳造において10進法が登場すると、重さ25グラムの銀900の5リラ硬貨がスクードとされた。この形式の硬貨は、第一次世界大戦まで使用された。スクードは19世紀まで発行されていた。

こんな感じで、スクードというのは、金額の単位というより、さまざまなスクードとして扱われる貨幣のことを指していたのですね。
スクードは金貨もありましたが、後年、銀貨となりました。また金貨の時代でも、その国の経済状態によって金の含有量や重さが変わっており、一筋縄ではいきません。そういう意味では、ゼッキーノとくらべてかなりアバウトなところがある貨幣といえます。
ある時代、ある場所を設定すれば、その条件に合ったスクードが出てきます。イタリアだけでも47都市で鋳造されていたのですから、これは大変です。逆に言えば、ゼッキーノ金貨と違い、身近な貨幣だったとも言えるでしょう。

しかしながら、一筋縄でいかないのがヨーロッパ!
こんな記述も見つけました。トスカーナ大公国(フィレンツェ)の事情です。

トスカーナ大公国では、帳簿(簿記)はスクーディ・ソルディ・デナーリ(あるいはトスカーナのリーレ・ソルディ・デナーリ)で管理され「スクード」は鋳造され流通されるものではなく、勘定(簿記上)のための単位であった。実際、7リレのスクードは1568年に鋳造され、その後1574年から1587年にかけて作られた。このスクード金貨の重さは3.30gから3.40gで、おそらく(19世紀半ばまでは、通貨の切り下げやインフレは知られていなかった)これを基準としていたと思われる。

おや。スクードは鋳造しないとあります。まあ、実際は7リレのスクード金貨は20年間のうちになんどか鋳造されていたけれど、それはその価値をベースに勘定用の単位として使われていたのでしょう。トスカーナ大公国では。
ここは注意が必要です。広く安定してつかわれていたゼッキーノと比べてスクードは公国や領地ごとに発行されている藩札のようなものとしてそれぞれの国で使い勝手が違います。

ではスクードの価値は現在に菅さんするとどのくらいの金額になるでしょうか?
スクード金貨は3種類ありながら、重さもサイズもバラバラのようですが、16世紀のトスカーナ大公国の資料がありますので、その換算で出してみます。

Uno scudo era pari a 7 lire, ogni lira era divisa in 20 soldi pari a 240 denari.
(1スクードは7リレに相当し、1リラは20ソルディ、240デナーリに相当する。)

あれ‥ こまった。ドゥルカマーラは1スクードで、途中からは3リラで販売するって‥ 合わない‥
ではどっちに合わせるのがいいかな? リラで換算した場合と、フィレンツェスクード金貨の重さで考えたことと両方出してみましょうか。

金貨と宝箱

まず、フィレンツェスクードの金貨1枚の重さ3.3g(または3.4グラム)です。金1g=¥12,800(2024年4月)として考えると 1スクード金貨は、44,220円です。いや、これじゃ1ゼッキーノのありがた味が感じられませんよね。
そこで、7リラ=1スクードということで、1リラは6,034円になります。ドゥルカマーラは、3リラで、と言う言い方をしていたので、あの時代の1スクードは3リラという価値になるでしょう。ということで、逆算した3リラと同じ価値の1スクードは18,102円高っ!!!

銀貨の方で考えてみましょう。1スクード=5フランとあります。以前、ルイ金貨の話を書いた時に生活物価指数から見た、当時の貨幣価値を見てみました。その時に1フラン≒1,000円とだしました。おそらくここ数年の物価上昇からしたら、20%くらいは変わっていると思いますが、ざっくり1,200円と考えてみましょうか。
それだと、5フラン=6,000円。1スクードは6,000円になります。銀貨の1スクードは、25グラムとあります(こちらは1スクードが5リラ相当となっています。つまり、1リラ=1フランということですね)ので、現在の銀の価格、1gあたりがおよそ150円(ここ数ヶ月、暴騰しています!)そして、25gの銀900ということは、1,000分の900、つまり、銀の含有量は22.5グラム。金額で言うと、3,375円。冗談みたいな違いですね 。

金貨の計算時の10分の1以下になってしまいます。とはいえ、これはフランスでのお話。また、現在は金と銀の価値の比が80倍くらいありますが、昔は日本でも、金銀比価は1:5 つまり銀5枚で金1枚です。ヨーロッパ各国では、1:15.5。このため、日本から大量に金を持ち出して大儲けした西洋という歴史があったことはまた別の話‥ (腹立ちますけどね)

こちらもよろしければ‥
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【Traviata:Vol.3】ルイルイ♪は「太陽の金貨」 椿姫の舞台となった時代、その当時の貨幣価値をちょっと考えてみましょうか。1フランは大体1000円くらいというように考えて……

残念ながら、ドニゼッティの時代のスクードの価値が正確にわかる資料は見つかっていませんし、上記のように金銀比価が全く違いますので、当時の観客がいくらで妙薬が売りつけられたと観ていたのかははっきり分かりません。スクードはこのように広く扱われていたお金、貨幣の単位になりますので、その当時の人たちの感覚では、万能薬の金額は6,000円、安ボルドーが入った愛の妙薬は45,000円、ネモリーノの兵役仕度は120,000円。こんな感じでしょうか? それでもおそらく農村部の貨幣価値としては高いようには思いますが‥?

さあ、ドゥルカマーラは、村の衆にドゥルカマーラの万能薬1瓶を、3,375円?6,000円? それとも18,000円? いっそ44,000円?? いくらで売りつけたと思われますか?

美食の街を訪ねて スペイン&フランスバスク旅へ 

【ユーロ高なので観て楽しむ】バスク地方って「美味しい」でも有名です。アディーナの結婚式の時、ドゥルカマーラが延々と残ってご馳走食べ尽くしていましたよね。美味しかったんでしょう。この本には、ピンチョスやバスク風チーズケーキをはじめ最高のグルメが満載。中でも最高のグルメ都市、サン・セバスティアンを中心に文化や見どころも含めたバスクを味わい尽くすガイドブック。ユーロ高の今、まずは闇雲に出かける前に、しっかりと計画して、ドゥルカマーラみたいな人に高い薬を売りつけられないためにも情報をきちっと集めておきましょうか。2004年最新版の情報です。