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台本や台本作家ネタ

【Traviata:Vol.3】ルイルイ♪は「太陽の金貨」

鹿島茂さんという方の「馬車が買いたい! (白水社 ) 」と言う本があります。

当時の生活ぶりを、「ゴリオ爺さん」や「レ・ミゼラブル」等の登場人物を通して解き明かしていてとても面白いです。

フランスではどの時代でも生活水準の目安となるものがパンの価格だそうです(へーーー)物価指針と言う奴ですね。日本の米価になるのでしょうか?

ちなみに、1キロのパンが8スー(4/10フラン)だったそうです。1キロのパン=バケット4本分にあたるそうです。

Fresh sourdough bread on farmers market

ざっくり省略しますが、それを試算すると、当時の貨幣価値がだいたい、1フラン1000円程度(著作が1990年で、重版が2009年、さてどちらのレートかしら?)になるそうです。

現在から見ると物価は多少上昇しているのですが(日本の統計局の物価指針を見ると、まあ、ものによってなんですが、ほんのちょっと高いです。あ、パンはやたら上がっていますが、フランスはそれほどでもないようです。)、判りやすいので、採用いたしましょう。

補助通貨はユーロになるまでつかわれていたものと同じ、サンチームです。(1/100フラン)

ただ、この頃は色々な時代のお金が平気で乱立していました。

たとえば、リーブル。(ベルサイユの薔薇ファンの方ならおなじみですよね)これは当時まだ現役です。

金貨の重さで言えば、本来は1フラン=1.0125リーブルにあたるのですが、フランの金の含有量が下がったため、1フラン=1リーブルとなってしまいました。

その、リーブルの補助通貨としてのスー(1/20リーブル)は、ボエームの舞台、カルチェラタンでは大手を振っていました。

そのほか、エキュ(1エキュ=3フラン)、ルイ(20フラン相当の金貨、当時はナポレオン金貨を指していたようですが、本来はアンシャン・レジームのルイ金貨を指します。)などが混在しています。

特に、ルイやエキュは単純に金貨・銀貨を指し、財産を意味したようです。

Photo by Public Domain Pictures

ということで……

さて、ここで気になるのが、アルフレードが賭けに使ったお金です。演出では よく懐から札束を出しているようなんですが……

100ルイを右へ、とか、左へ……というときの「ルイ」は金貨となるはずなんです。でも、金貨の袋持ってきていたんでしょうか?

実は、当時の賭博場では掛け札の代わりをルイ金貨がしていたから。つまり、現在でもカジノで使われるチップ、あのような感覚のようです。

つまり、100ルイを、という時は2000フラン(200万円)を出してというように……

ん?

わーーーー  ちょっと待った!!アルフレード。
どこからそんなお金持って来た!?

いえいえ、最初は、どれだけ賭けていたかは判りませんので、ホンの1ルイくらいから賭けてここまで増やしたのかもしれないですが……(それでも2万円だけれど)
何度も勝って、もしかして、男爵が賭けに加わった頃に、ちょうど手持ちが100ルイ位だったのかもしれません。

それでも少なくとも、男爵とのやり取りで300ルイ=6000フランは勝っています。その前の手持ちと勝ち金を合わせると、500ルイ=1万フラン(1000万円)くらいは持っていたのでしょうか。

ところで、1840年代、『紙幣』は100フラン・200フラン・500フラン・1,000フランの4種類が発行されていたそうです。

ただ、40年代に追加された100と200がこの時既にあったかは残念だけれど判りません。まあ500フラン札(5万円相当)を使ったとすると20枚程度になりますね。
ヴィオレッタの顔に叩き付けるにはどうでしょう? 多い?少ない??

ところで、たしか、アンニーナがアルフレードに不足分は1000ルイと言っていましたよね?  つまり、2万フラン……

たりないじゃん!

【馬車は貴族の必須アイテムです】

「椿姫」の中でも印象的なシーン、アルフレードが札束を投げる。でもそのお金、現在だったらいくらくらいかな?と思ってみると。
現在の各社界なんか吹っ飛ぶほどの格差社会のあの時代、必須アイテムを買うとしたら‥ ぜひぜひご購入をお考えの方はご参考に。。(なるか〜い!!)

Liù

【Turandot:Vol3.】リュー、強い子泣かない子。

Liù
Photo by Some Tale : unsplash

トゥーランドットで、主役のトゥーランドット姫よりも人気のあるリュー。

王子がかつて一度だけ微笑んでくれたからと言うだけで(一目惚れしたってことなんだとは思いますが)、目が見えなくなったティムールを支えて、遠くアストラハンから北京まで(どうして北京なんだかわからないけれど)逃避行を続け、王子の幸せのために老人のティムールをかばって拷問を受け、挙句に自殺して果てる。ああなんてかわいそうな、そして健気なリュー…
あ、でもちょっと待ってください。リューは、前回もお話ししましたが、あんな遠くから、目も見えない、また、お尋ねもの(負けた国の王なんで)の老人を連れてですよ、若い娘が護衛も連れず長い長い旅をしているのです。そんな。今と違って街や邑を離れた街道は追い剥ぎやら山賊の宝庫ですって。
戦って倒した相手も 一人や二人ではなかったでしょう。いや、そのくらいの気概がなきゃ、まず速攻に捕まって売り飛ばされていますって。

一方、どのオペラの解説を読んでも、プッチーニが特別にリューに対して思い入れを入れた結果、彼女があまりにも巨大になってしまった、ということは話されています。その結果、リューの性格がひっくり返ってしまったこともあるようです。

リューの有名なアリア、「お聞きください王子さま」
切々と美しいピアニッシモで歌われる名曲ですよね。リューの切なさ、愛らしさ、健気さを象徴するようにも思いますが、オリジナルのリブレットでは、ちょっとばっかり違います。

現在のリューのアリアにあるト書きはこうなっております。
  avvicinandosi al Principe, supplichevole, piangente
  王子に近づきつつ、哀願する様に、泣いて

その後有名な「 Signore ascolta! (王子さま!お聞きください)」と始まります。ところがリブレットでは違います。
あ、リブレットですよ。原作ではありません。原作にリューは登場しませんから。(リューの代わりに数名の女官は出てきます)

 reprimendo le lagrime, con ferma promessa
涙を抑えつつ、決然たる誓いをもって

Per quel sorriso,
si’ … per quel sorriso Liu’ non piange piu’ !…
Riprenderem lo squallido cammino domani all’alba
quando il tuo destino, Calaf, sara’ deciso.
Porterem per le strade dell’esilio,
ei l’ombra di suo figlio io l’ombra d’un sorriso.
あの微笑みの為に、
えぇ…、あの微笑みの為に、リューはもう泣きません!
明日の夜明け、カラフ、あなたの運命が決まる時に、
私達は、物悲しい(悲惨な)歩みを再び始めましょう。
亡命の道に、彼(ティムール)は息子の(悲しい)影を、私は微笑みの影を担って(背負って)。

えーと。この歌詞を読むと、どう読んでもカラフ(名前呼んじゃってるし)が勝とうと負けようと、どっちにせよ自分にとって残酷な結果は見ることになる前に、『あなたのあの微笑みを胸に、私たちはまた旅立ちましょう』と言っています。あ、そうなんだ。止めないんだ。。。。。

そして、そのままだったらリューのアリアのあとにある「泣くなリュー」という身勝手極まりないカラフのひとくさりなんですが、実際は、このアリアの前に出てきます。つまり、この歌は「もう泣くな」とカラフに言われたので、そのアンサーソングとしての立ち位置だったようです。「泣くな」「わかった。もう泣かない」もう泣かないリューとなっていたはずなんです。まあ、ここで、リューちゃんがティムールの手をひいてスタスタと去って行ってしまったら、その後のカラフの「泣くなリュー」から始まる合唱まで巻き込んでの感動的な一大コンチェルタートにはならなかったでしょう。

ちなみに、音楽そのものは同じです。ただ、半音上になっていたそうです。最後の音がHとなります。現在の[Ah pieta’!]の終わりのB音は、もう一箇所の[sorriso]と対になっています。
本来の音だったら、あんなにたくさんのフラット記号がなく、音取りに苦労しなくてよかったのにね…

そしてこのリブレットを「絶対に嫌!!」と言って変更させたのが、そう、プッチーニなんですよね。

プッチーニはトゥーランドットだけではなく、ボエームに対しても、トスカについても多大なリブレットへの介入をしたことでも知られています。トゥーランドットは、「つばめ」でもタッグを組んだジュゼッペ・アダーミとジョルダーノの『マダム・サン=ジェーヌ』を書いたレナート・シモーニが担当しています。イッリカやジャコーザほどの大物ではないので、遠慮なく介入しております。そのため、リューはカラフの決心を聞いて受け入れ、「それでは私、これからティムール連れて旅に出ます」の代わりに「お聴きください。王子さま。私はもう耐えられません。」と縋り付かせます。 ま、いいんですけれどね、そのおかげで素晴らしい音楽ができたのですから。

ちなみに、彼女は楽譜の上では LIUと記載されています。これって日本人にはとってもめんどくさくて嫌な話ですし、人によって リューだったり、リゥだったりしているなあ〜と個人的には気になってたまらなかったのです。こちらは簡単。プッチーニが回答を手紙に書いています。

「リューは2音節にはしない。1音でリューと発音」だそうです。
Turandotの解説書

【英語ですがよろしければ】

Puccini’s Turandot (Princeton Studies in Opera)
William Ashbrook (著), Harold Powers (寄稿)
二人の音楽家による プッチーニ作曲トゥーランドットについての解説書です。この文のネタを頂戴しております。ありがとうございます。

【Traviata:Vol.1】ドゥミ・モンドのこと

今回はドゥミ・モンドのことについてちょっと書いてみましょう。
この話を書いておかないと先にいろいろと進めなくなってしまうのです。


ドゥミ(半分)モンド(世界)
フランス語で「半分の世界」という意味になる言葉ですが、実はけっこう新しい言葉なんです。それも 誰あろう、アレクサンドル・デュマ・フィス(息子)が、1855年に発行した小説のタイトルとして創った言葉とのことです。ってことは、その頃、実際にはそう呼ばれてはいなかったっていうことですよね。また、わざわざそういう言葉を作った、ということは 今までの社交界とは違うものがそこに確実に存在した、ということになるのだと思います。

では、半社交界、ドゥミ・モンドとは一体何だったのでしょう?

日本語だと 半というより、裏社交界と言った方が判りやすいかもしれないですね。

1830年の七月王政から48年の王制崩壊、共和制になるちょい前の15〜6年くらいの間、その前に興った産業革命ともあいまって、フランスは前代未聞のバブル(土地バブルではなく、投資バブルですね)に浮かれまくります。こうなると、なにが興るか!?

極端な貧富の差の誕生です。

日本のバブルはあっという間にしぼんじゃったので、そりゃあ大変だったけど、それでも案外傷は浅かったのですが、このバブルは15年もつづいたのです。
けっこう大きな傷跡残してくれました。

突然の貨幣経済により、土地からの収益のみで成り立っていた貴族達は没落し、突然大量の資産を手に入れた裕福な市民階級がその称号を買い取り、新興貴族となります。
その彼らの周りにいたのは、時代の徒花として存在した特殊な女性、お待たせ致しました!「クルティザンヌ」たちですね。
高級娼婦とも呼ばれますが、美貌だけでなく、高い教養やそのセンスの良さを誇り、誰かの愛人として囲われることなく何人ものパトロンを持ち、湯水のようにお金を使います。
ええ、自分で苦労して稼いだお金ではありません。他人のあぶく銭ですから、もう親の敵のように派手に使いまくりました。
パリの中心にアパルトマンと自分用の馬車を持ち、自ら月に数回も華やかな舞踏会を主宰し、劇場に通います。まあ、羨ましい(<違)

中でも野心的なクルティザンヌのうちには、財産を築いたり店を持ったりして生き抜いた人も居ますが、共和制以降は気の毒な事になったようです。
当時の人気クルティザンヌの写真は、ブロマイドとしてかなり売れたようです。ってことは一般庶民の憧れ、今ならさしずめレディ・ガガ様や浜崎あゆみの様な大スターでしょうか。

そういった、クルティザンヌや、新興貴族、ブルジョワジー達によって構成された社交界のことを、王族、貴族による本来の意味での「社交界」に対して、ドゥミ・モンドと名付けました。

ヴィオレッタのパーティに集う人々をご覧くださいまし。
本来の重要な貴族達(まあ、かなり革命で消えちゃいましたせいか)公爵や伯爵はあまり見かけません。
男爵や子爵といった、割と爵位の低い貴族が揃っていますが、皆さん羽振りはよろしそうですね。
このうち、特に家臣から発生した「男爵」という爵位は、簡単に金銭による売り買いの対象になりましたから、ドゥフォール男爵って、ちょっと新興の成り上がり貴族のようにも思えます。
ああ、貴族の「階級」のお話も面白いのでいずれまた。

ところで、ヨーロッパでは「ちゃんとした女性」が、パーティの席でお酌をすることはあり得ないんだそうです。
あくまでもそのための僕か、それが居ないときは主人役の男性が行います。
一幕で『ヘーベーを見習ってお酒を注ぎましょう』とヴィオレッタがお酒をついで廻りますが、こういうことをやっちゃうのが、女主人が「普通の夫人」ではないドゥミ・モンドのパーティ。
そこに居るのは、貴族の皮をかぶった平民、貴婦人のドレスをまとった、やっぱり娼婦達。ちょっとぞくぞくしませんか?

当然、趣味の良さを身上としますので、豪華さも華やかさもうわべの上品さも貴族のそれとは全く見劣りがしないはずです。
ただ、どうしても長い年月をもって培われた貴族達とはどこか違う、何故かちぐはぐでいびつな世界。これがドゥミ・モンドです。

【お酒注ぐシーンが印象的。美しいヴィオレッタが素敵!】

DVD ヴェルディ:歌劇「椿姫」日本版が廃盤になっていて残念です。 字幕はないけれど一見の価値はあります。
アンジェラ・ゲオルギューの出世作。 とにかく美しかったです。
サー・ゲオルク・ショルティの指揮のもと、正確無比な音程で見事に情感を描き切った素晴らしい若く気高く美しいヴィオレッタでした。

【とにかく演出が美しすぎる。まさにドゥミモンド】

こちらも日本版が廃盤になっていて残念…
ゼッフィレッリのあまりにも有名になってしまったトラヴィアータ。
美しいことこの上ない映像と、このために多大なダイエットをした結果、ナイーヴで繊細な美青年となったドミンゴが思う存分夢をみさせてくれます。

【Boheme:Vol.2】カフェ・モミュスに行こう!

Cafe de Paris
Photo by Daria Shevtsova

舞台になった、カフェ・モミュスなんですが、実はThomas Boysという画家がスケッチを残しています。
ケンブリッジ・オペラ・ハンドブックの表紙にスケッチの一部が使われているので、記憶にある方もいらっしゃるかもしれないですね。
画像検索でしっかり見つかりました。

壁にちゃんと「カフェ・モミュス」とあります。ビリヤードっていう文字もみえます。

こちらの絵は複製画を14.9ユーロから(税込み)で購入できるようです。よろしければおひとつ……

う~ん。 実在したのですねえ……だけど、なんだかちょっとイメージは違う雰囲気はします。
場所はどこでしょう。水彩画の方の説明には、Rue des Prêtes, Paris とあります。多分、これは住所でしょう。

地図を広げて調べると、その通りの名そのものは既に見つからず、3 Rue des Prêtes Saint-Severinと言うところにサンセヴラン教会があります。カルチェラタンの近く、サンジェルマン通りのすぐ北、イル・ド・フランスといわれる地域です。

ちょっと微妙だなあ…… と思いつつ、ト書きを読んで行くと、色々と通りの名前が出てきますね。

市民達が「Via Mazzarinoに行こう!さあ、Cafe Momusへ行こう!」と言います。(ヴォーカルスコア98ページ)
パリの場合、Rue Mazarine(マザリーヌ通り)でしょうか。
地図を広げてみると、ああ、ありました!マザリーヌ通りにムゼッタが立つ(116ページト書き)と、ドフィーヌ通り(106ページ)との交差点を挟んだその向うの旧コメディ通りにパルピニョールが去ってゆきます(110ページ)。
そのちょうど5つの通りがちょっと変則的に交差する角には まさにこんな感じ!というカフェが両側にあります。
Le Buci とLe Conti…… あ、ちょっと惜しい!モミュスじゃないっ!!(笑;;;;

それでもその辺りはまさに カフェ・モミュスのイメージにぴったりですね。
実は、別のルートから、モミュスのあった場所が判りました


17 Rue des Prêtres-Saint-Germain-l’Auxerrois だそうです。

関係者の家やモミュスの場所を入れたGoogleMapを作って、公開しておきましたので、興味のある方はどうぞ。まあ、リアルに場所がわかったからってどうってことはないですが(笑;;;
だけど、これで見ると、モミュスって、ポン・ヌフを超えて、対岸にあるんですね。

ところで、オペラの中に登場するカフェ・モミュスのモデルには、もう一つ、プッチーニが当時滞在していたトリノのテアトロ・レージョ近くにある カフェ・ビチェリン(Al Bicerin)がそうじゃないかという説もあります。
創業が1763年とのこと、少なくとも初演を前に準備が忙しかったプッチーニが通っていた事は想像に難くないでしょう。

–イタリア人ですもの、3歩歩いたらバール寄りますからね。(^m^)–

ひょっとして、音楽のイメージの中に このカフェが反映されているかもしれないですね。

ところで、ここでクイズをひとつ。

実在の4人の若者達(当時「四銃士」と呼ばれていたそうですよ)をモデルにした、ロドルフォたち4人。カフェ・モミュスへは、このクリスマスの晩に「A:実は初めて行った」いえいえ、「B:何度も行った事がある」

さてどっちでしょう。

応えは「B:何度も行った事がある」です。

え? だってボーイが持ってきた会計書見て「高っ!!!」って叫んでいましたよね。自分たちの懐具合も値段もわからないでモミュスに繰り出していったって??

そうなんです。そこんところについてもリブレットにはちゃんと書いてあるんです。
「彼らは、何度もモミュスに出かけ、請求書を受けても払う事もなく出てくるところも一緒で……」
のどかな時代なんでしょうか。

確かに、今回もそれなりのお金をしっかり手に入れてモミュスに行った筈なのに、コート買ったり、ボンネット買ったり、そもそも先に全部使っちゃっていましたよね。

ちなみにビチェリンとは ホットチョコレートにコーヒーとクリームを泡立てたものだそうです。せんだって、念願叶ってトリノへ行くことができましたが、悲しいことに、カフェ・ビチェリンは定休日でした。

【確認したくなったら…】

【まずはヴォーカルスコアから】

プッチーニ: オペラ「ボエーム」/リコルディ社/ピアノ・ヴォーカル・スコア

【対訳はご入用ですか?】

言葉を話せてもけっこうめんどいのがオペラの歌詞。韻文の美しさをどのように訳されているのかを楽しむこともできます。

革命

【Boheme:プロローグ】若者よ、恋なんかしてる場合じゃない!

ラ・ボエームの解説本を読むと、舞台はたいてい、1830年頃のパリ、時はクリスマス・イブと書いてあります。

革命
Photo by Pierre Herman

まあ、せいぜいが1830年代中頃まで。 つまり1830年から1835年頃と見るのがよさそうです。
お話は文無しの若者たちと、貧しいけれど心根の優しい娘たちの一瞬のきらめくような愛と死を描いたとてもロマンチックなお話ですけれど、この当時のフランスって、実のところ、とんでもないことになっているんです。
ここんところは押さえておきましょうか。

1789年、フランス革命ですべてがガラガラポン!王政が廃止され共和制へ。高い理想を持って突っ走りすぎたせいで内部では自己崩壊してしまいます。

ところがあまりに過激な革命の進み方にびびった諸外国から、介入にあってしまいます。現在もどこかの国がなんかあると介入しますよね。さすがにこれには困った。
それを打ち破れるには強い軍人が必要だったのです。いいところに出てきたのがナポレオン。その帝政の時代を経て、やっぱり成り上がりは「ダメ」と王政復古がなされます(忙しいですね)。

ルイ16世の弟のルイ18世の時はまあなんとかいったんですが、その弟、シャルル10世のとった反動政策に叛旗を翻したのは力をつけてきたブルジョワジ(中産階級)たち。

7月革命で国王を追い出し、オルレアン家のルイ・フィリップによる新国王が誕生します。
おお、そういえば、ルイ・フィリップさんって、1幕でショナールが投げたコインに刻印された国王陛下でしたよね。

その結果、爵位が裕福な市民階級に買われて「成り上がり貴族」が誕生する一方で一般大衆の多くは職を失い、町は失業者で溢れていました。

一方、レ・ミゼラブルのクライマックスの学生たちの蜂起のシーンは1832年6月のパリ蜂起(暴動)が舞台です。
それは経済国王といわれたルイ・フィリップの下、広がる貧富の格差と不作、コレラによる街の荒廃が背景となり、やり場を失った若い理想主義者たちの暴発でした。気の毒に……
そしてその失敗により、民衆の不満は1848年の2月革命によって国王が追い出されるまでどんどん肥大し悪化していったのです。
ということで、まあ、ロマンチックどころでないのがこの時代です。

ロドルフォもミミを口説いている暇なんかない状態のはずですが、良くしたものでこういう時代ならではの物語が産まれたのですね。
あとから重要になってきますからしっかり押さえておきたいポイントです。私だったらきっと試験に出しますよ。

【珍しい版を見つけました】
“PUCCINI : LA BOHEME DVD”
ルチアーノ・パヴァロッティ、イレアナ・コトルバシュという名盤の一つですがまだ手に入ります。
天子、姫君と大臣たち

【Turandot:プロローグ】もじもじする大臣たち

数年前、とあるところの連絡用のメールに軽い気持ちでちょっと前に教わったばかりのTURANDOTについての小ネタを書いたのだけれど、思いのほかにこれがウケたので同じようなネタを集めて書く様になりました。

また、一部の方たちにはかなり面白いと言っていただくことがありますので、こちらに整理して残しておこうと思います。

「さて、ピンポンパンの3人の大臣は、2幕の1場の最後、いよいよ宮廷に向かうとき、どんな風に退場するのでしょうか?」
答えは「もじもじ」 (^-^;;;;   ボーカルスコア160ページ、いちばん最後の小説のト書きをご覧ください。

– Se ne vanno mogi mogi. –

彼らはもじもじしながらと立ち去った。(嘘です。悄然として立ち去ったです)

ちなみに、これは複数だからmogi mogi ですが、一人だったとしたら「もじょもじょ」ってなります。
これも棄てがたく、なんか可愛いですよね。

[ご参考までに]プッチーニ: オペラ 「トゥーランドット」全曲版スコア リコルディ社
現在お値引き中!? 値下げされたのかしら。 とてもお手頃になっております。
[映像見るなら]なんといっても名盤はこちら。エヴァ・マルトンの強靭な声の姫君と、若々しいドミンゴの賢そうな王子。
そして ゼッフィレッリらしい絢爛豪華なセットと奇を衒わないけれどもきらめく演出はメットならではのもの。